僕は福祉の会社で情シスをしているのですが、入居施設やデイサービスなどの共有スペースのテレビでYouTubeの動画を流したいという相談を受けることがあります。
また、流す方法としてAmazon Fire TVを使用するということもあり、おそらくプライムビデオを流したいという意見も出てくるのではないかと予想しています。
ネットで調べてみても私見でOKと言っている人もいれば、堂々と流していると宣言している施設もあります。
そういった話を見聞きする度にモヤッとする気持ちに。果たして何が正解なのか、ということを考察していきます。
ダラダラと書いていますので結論から申し上げますと、YouTubeとAmazonプライムビデオ、いずれも利用規約で禁止されています。
著作権の前提知識
YouTubeやプライムビデオに限らず、ネット上にあるコンテンツを使用するときに必ず問題になるのが著作権です。
パブリックドメインになっていない限り、すべての著作物に著作権は発生し、権利者(著作者)に無断で複製や転載をすることはできません。
著作権侵害は親告罪のため、権利者に見咎められない限りは罰を受けることはありません。
著作権を気にせず使える場合
文化庁のページに著作物を自由に使える場合の一覧が載っています。
私的使用のための複製、教育に使用する場合、適正な範囲内での引用といったケースが日常的によくありますが、今回のテーマでは私的使用ではありませんし、福祉事業の中での話ですし、引用ではなくまるまる流す前提ですから関係がありませんね。
関係がありそうなのが「営利を目的としない上演等(第38条)」の第1項です。
営利を目的とせず,観客から料金をとらない場合は,公表された著作物を上演・演奏・上映・口述することができる。ただし,出演者などに報酬を支払う場合はこの例外規定は適用されない。
営利を目的としない上演等(第38条)第1項
ここの判断が難しく、YouTubeの動画を視聴するのに金銭を徴収していれば確実にアウトなのですが、そこまではしていないので営利目的ではないと言えます。
ただ、事業活動の中で提供するサービスの内にYouTubeの上映があると考えると、著作物を使用して事業収入を得ていることになるため営利目的とも言えます。
カフェなどの店舗のBGMとして音楽を流す場合、その音楽を聴くのに料金を徴収するなんてことはありませんし、お客さんもその音楽を聴くために店舗を利用して料金を支払っているわけではありません。しかし、この場合でも商用利用すなわち営利目的とみなされて著作権侵害になります。
そういう意味では動画視聴に対して料金を徴収しなくても、事業サービスの中での上映は営利目的であると解釈すべきだと考えます。
権利者が許可する場合
著作権はどの著作物にもありますが、権利者が使用してOKと明示していたり、事前に許可を得ていれば使用してもOKです。
調べていたところ、「JASRACは福祉施設での使用を認めているから著作権は気にしなくてOK」というブログ記事を見つけました。
そのブログが根拠としていたのはこのJASRACのページなのですが、これはテレビやラジオなどの手続きが不要な放送や、音源をBGMとして使用する上での話ですので、映画やYouTubeなどの映像コンテンツは関係がありません。また、JASRACが管理しない著作物については当然この条件も対象外となります。
あと著作者=権利者にならないケースもあります。例えばブログサービスで書いたブログ記事は、書いた人に著作権があると思いきや、ブログサービスの利用規約により著作権はサービスの運営側にあるという場合もあります。
もしYouTubeが投稿された動画の著作権は運営側にあると取り決めていた場合、動画の投稿者が使用を認めていてもYouTubeが認める範囲内でしか使用できないことになります。
YouTubeを流すことについて
YouTubeの利用規約を読んで解釈します。
著作権の観点
利用規約には以下のようにあります。
お客様が付与する権利
お客様は、ご自身のコンテンツに対する所有権を保持します。ただし、YouTube に対して、および本サービスを利用する他のユーザーに対して、以下の一定の権利を付与していただく必要があります。
YouTube へのライセンス付与
本サービスにコンテンツを提供することにより、お客様は YouTube に対して、本サービスならびに YouTube(とその承継人および関係会社)の事業に関連して当該コンテンツを使用(複製、配信、派生的著作物の作成、展示および上演を含みます)するための世界的、非独占的、サブライセンスおよび譲渡可能な無償ライセンスを付与するものとします。これには、本サービスの一部または全部を宣伝または再配布することを目的とした使用も含まれます。
他のユーザーへのライセンス付与
また、お客様は、本サービスを利用する他の各ユーザーに対して、本サービスを通じてコンテンツにアクセスし、(動画の再生や埋め込みなど)本サービスの機能によってのみ可能な方法で、複製、配信、派生的著作物の作成、展示、上演などのかたちでコンテンツを使用する世界的、非独占的な無償ライセンスを付与するものとします。明確にするために付記すると、このライセンスは、本サービスから独立した方法でコンテンツを使用する権利や権限を与えるものではありません。
https://www.youtube.com/t/terms#a34fd7f0b4
著作権は動画投稿者にありますので、投稿者から許可を得れば使用可能ということになります。
それどころかYouTubeの事業や、他のユーザーがYouTube上の機能の範囲内でコンテンツを使用できるようですね。
投稿された動画コンテンツ自体が著作権侵害していないという前提が必要ですが、正当にアップロードされた動画であれば著作権はあまり気にしなくていいのかもしれません。
利用規約上の制限
著作権の関係はクリアできたとしても、利用規約上で下記の通り使用方法に制限があります。
本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。
https://www.youtube.com/t/terms#a34fd7f0b4
介護施設で上映することは当然ながら個人的ではありません。そしてここでも非営利的な用途という条件が出てきます。提示されている例についてはまさに介護施設で上映する行為に当てはまります。
上述した通り、著作権ではコンテンツの視聴に対して直接的に料金を徴収しなくても、店舗などのサービス上で使用した場合は営利目的とみなされることから、介護施設における上映も営利的な利用となります。介護施設における例外はJASRAC管理下の音楽をBGMとして使用することのみで、その例外は通用しません。
つまり、介護施設におけるYouTube上映は、著作権はクリアしていたとしてもYouTubeの利用規約で禁止されていると判断すべきです。
YouTubeの規約違反によるペナルティは主にアカウント停止・削除とのことで、民事裁判や違約金の支払いといった事例はないようですが、それでも「ルールを違反している事業者」とみなされることは大きな損失です。
プライムビデオを流すことについて
プライムビデオも利用規約がありますので確認します。
下記のような記述があります。
k. 一般的制限。お客様は、以下のいずれの行為も行うことができません。 (i) 本利用規約にて許容されている場合を除き、本デジタルコンテンツを譲渡、複製もしくは表示すること、(ii) 本デジタルコンテンツについての権利を販売、レンタル、賃貸、配布もしくは放送すること、 (iii) 本デジタルコンテンツに付された所有権通知または権利表示を削除すること、 (iv) 本サービスの一部として用いられているあらゆるデジタル権利管理システムまたはその他のコンテンツ保護システムを無効化、回避、改変、打破その他迂回することを試みること、および(v) 本サービスもしくは本デジタルコンテンツを商用もしくは違法な目的で利用すること。
商用目的での利用が禁止されていますので、YouTubeと同様に解釈すれば介護施設での利用はNGです。
社内研修での利用に関する事例
また、フォーラムにて下記のような質問と回答がありました。
非営利の映画上映の著作権について。
非営利なら著作権の問題が許容されるとする、著作権法38条というのがあります。
この度社内でのLGBTQ+での理解促進活動のため、
観客から料金をもらわず、物品販売などもせず、純粋に教育目的のために社内でのプライムビデオなどの動画の上映会を検討していますが問題ないでしょうか?
営利目的では御座いません。
よろしくお願い致します。
タイトルに教育目的とありますが、教育機関での利用ではなく企業における社内研修で上映するという内容ですね。
これに対してAmazonの回答はこちら。
このたびは、Prime Videoのご利用についてお問い合わせいただきありがとうございました。
Prime Videoは、デジタルコンテンツの閲覧に料金が請求されない場合でも、公開(社内や寮のラウンジ、教室でのプレゼンテーションなど)や、公共の宿泊施設その他の商業施設(バーやレストランなど)でのプレゼンテーションなどを目的として利用することはできません。
ご希望されているご案内ができないことについてお詫び申し上げます。
視聴に対して直接料金を徴収しないような利用方法においてもプライムビデオは利用できません。
学校教育においてもNG
上記のフォーラムの関連リンクに学校教育におけるケースについても質問と回答がありました。
「Prime Videoを学校等で見る場合、利用規約等で問題になりますか? プロジェクターを使用して大勢で見る等で・・・」という件名です。
著作権においては教育機関では使用可能なのですが、Amazonの見解はといいますと、
Prime Videoは、個人向けのサービスです(Amazon Prime Video利用規約)。お客様個人の非商用的で私的な利用に限りご利用いただくことができます。学校の授業やイベントなどで大勢でご視聴いただく場合は、私的なご利用範囲を超えてしまいますので、申し訳ございませんがご利用いただくことはできません。
ご期待にそう回答ができず申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいませ。
このように学校教育の現場における利用についてもNGです。
この本文を見ていて初めて気づいたのですが、「個人的 OR 非商用」ではなく「個人的 AND 非商用」が条件なのですね。つまり個人の枠を超えた時点で「これは営利目的だろうか……」などと考えることも無意味な話ということです。
他の動画配信サービスについても同じことがいえる
プライムビデオについては常識的に考えてNGと判断できる材料があります。それは視聴するのに料金が必要ということです。
料金を支払わないと利用できないサービスを、第三者に対して無料で利用させているわけですから、Amazonからすればその分損しているわけです。そりゃダメでしょう。
ということは、Netflix、Disney+、Hulu、U-NEXTなど、他の動画配信サービスも同様の条件であると考えるべきです。実際に利用規約を確認しましたが、個人的かつ非営利目的での利用が条件でした。
YouTubeとプラムビデオは介護施設では利用NG
というわけで改めて結論を申し上げますと、介護施設で上映して利用者に見せるという目的において、YouTube、Amazonプライムビデオのいずれも利用規約で「個人的かつ非営利目的」という条件に違反しているのでNGです。
調べていると平然とコンテンツを流していたり、あるいは流すことを推奨するようなブログ記事がたくさん出てきて「こいつら正気か……?」と思う一方で「もしかすると僕の方が間違っているのかも……」と不安にすらなっていました。
今回こうして記事にすることで論理的に考えることができて、自分が間違っていなかったと少し自信を持てました。
とはいえ、素人の考えでもあるので、実際に利用を検討される際には一度お付き合いのある弁護士などにご相談されることをおすすめします。
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